SUGAR サンプル
※サンプルですので一部分を抜粋して掲載しています。
多少改行などで違う部分はありますが、内容は同じです。




interlude

きっかけはいつもの他愛ない口喧嘩だった。
原因もいつもながらにくだらないもので、やれ掃除の仕方が荒いだの塩が多いだの。
言われてカチンときたこちらが反論した事に端を発して勃発。
ちょうど家に自分達以外誰もいなかったのをいい事に、止まるきっかけをみつけらぬまま
次第にエスカレートしていった。
「まったく貴様は…少しは素直になったらどうだ、可愛気のない!」
苛立ちが頂点に達したらしいアーチャーが、眉間の皺を更に深くしてそう吐き捨てた。
「っ、男が可愛いとか言われて嬉しいワケねェだろッ!」

ーその時はブチ切れてそう言いながら部屋へと戻ったが。怒りが治まっていくにつれて段々と、
アーチャーに言われた『可愛気がない』という言葉が重くのしかかってきた。

普通であれば先程のように言われても馬鹿にされたようで腹が立つだけでちっとも嬉しくないのだが…
「やっぱり……なあ」
相手が恋人であると話は別だなと感じ始めた。
紆余曲折あって恋人同士になり、幸せにしたいと思う程度には惚れている相手にくらいは
……言われたいかもしれない。
「ううぅ……」
でも今まで反発を繰り返していた相手なだけに、なかなか素直にはなれず。
……遠坂辺りにはバカップルめと言われそうだけれど、本人は真剣に悩んでいる。
「練習とか出来たらなんとかなりそうなんだけど」
だからといって樹や物に話し掛けたり行動するのは絶対変に思われるし、
誰かに見られたらあっという間に近所の噂になってしまう。

どうするか…と考えている内に、足はいつのまにか商店街の入口までやって来ていた。
「とりあえず夕飯のメニューを考えるか」
一朝一夕で解決できる問題ではないしと頭を切り替えて、お買い得品はないかとスーパートヨエツに向かう。
「…あれ、キャスター?」
スーパーの中には、春らしい色合いに身を包んだキャスターが何やら葉物野菜の前で考え込んでいた。
「お互い夕飯のメニューには苦労するよな」
苦笑しつつ声を掛けると、閃いたらしく尖ったエルフ耳をピンと上げた。
「そうね、坊やがいるじゃない!」
「…………ん?」
レシピでも聞きたいのだろうかと首を傾げていると、ガッシリと肩を掴まれた。
「買い物が終わってからでいいから、話があるの。後でそこの公園まで来てくれるかしら」
「? わかった」
何か魔術絡みの込み入った話なのだろうか。遠坂に連絡する必要も考えつつ、
手早く買い物を済ませてイリヤと初めて会った時に使った公園を目指す。
相変わらず人気がないここは静けさに包まれていて、ヒンヤリとした寒ささえ感じてしまう。
「待たせてごめん」
温かい紅茶ボトルを渡しながら謝罪すると、気が利くわねと微笑まれた。
人妻とはいえ非常に美人なキャスターに悪意のない笑顔を向けられると、何だか照れ臭い気分だ。
「それで?用って何だ?」
頬が熱いのを誤魔化すように尋ねると、キャスターが深刻な面持ちで切り出した。
「実は私…ラブドールを買いたいと思っているの」
「…………は?」
犬種の話かと思ったのだが、よく聞けばそうではないらしい。響きからしてロクな物じゃない気がする。
でも頼みを無下にするのも何なので、それがどういうものかを説明してもらった。

何でも、人間と同じ大きさの女性の人形で、間接などを含めて
人間そっくりにリアルに作られているものらしい。
そして男性向けなので…まあそういう、性欲処理をする為のものを取り付ける事も可能なのだそうだ。
資料らしい小冊子を見せてもらって………
正直ドン引きしていると、何故必要なのかを言い訳がましく語り始めた。
キャスターが言うには、セイバーや他知り合いの女性陣に色々自作の衣装を着せて楽しみたいのだけれど、
承諾してくれう人がいないのだという。かといって魔術で作り上げた人形では
存在するだけの時間が限られているので、常に置いて眺めている事は出来ないのだそうだ。
しかしマネキンでは間接なども含めて満足出来ないので…
色々調べてみた結果、ラブドールに辿り着いたのだそうだ。
商品はネットで買えるので、女性であろうとも名前を偽れば可能ではあるが、
お山に送られて来て万一受け取ったのが自分以外の寺に共に暮らす誰かだった場合、
中身を確認されてしまう可能性があり色んな意味で非常にヤバイので、協力者を探していたのだそうだ。

「だから坊やの家に送らせて欲しいの。お願い出来ないかしら」
必死の嘆願に、特にこちらにはデメリットもなさそうだったので頷こうとして。
「昼間は俺学校だし、基本受け取りはアーチャーがしてくれてるんだ。
だからアイツにも協力してもらう事になるけど、構わないか?」
もし届いた際に自分が受け取ると固持してその結果ブツがアレでは、
アーチャー相手だけでなく他の面々に対しても、色々なものを失ってしまう危険性がある、と訴えてみた。
そこにアーチャーを組み込めば万事解決だ。
「…まあ2人共口は固いし、お願いするわ」
随分と信頼されている事をうれしく思いながら、交渉成立の握手を交わす。
「ああでも本当に助かったわ、坊や。心から礼を言います」
本当に安心したようで、先程よりもやわらかな微笑みを浮かべるキャスターに、
再びドキドキと心臓の鼓動が早まる。
「いや、困ったときはお互い様だ」
動揺でブレないように気を付けながら、自宅の住所と電話番号を先程の資料の端にメモする。
「相変わらず無欲ね。でもそれじゃ私の気が済まないから、
 何かひとつ私に出来る範囲で望みを叶えてあげるわ」
「そう言われてもな…」
上機嫌に交換条件を提示してくれたのはいいけれど、何も思いつかない……と思っていたのだが。
「じゃあキャスター、頼まれてくれるか」






To be continued...









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