Midnight☆Butterfly サンプル
※サンプルですので一部分を抜粋して掲載しています。
多少改行などで違う部分はありますが、内容は同じです。




一体何がどうしてこうなった。
思わずそう叫びそうになる口を懸命に閉ざしながら、今現在己が陥っている状況の説明を凛から受ける。
…しかし混乱の極みの中では、当然ながら内容は左から右へ流れて行くばかりで
ちっとも頭に入っていってはくれない。…いや、むしろ入っていく方がおかしい。
ーそれもそのはず。
「なぁ、お兄さんはこの身体を見て『犯したい』と思うのか『犯されたい』と思うのか、
 どっち?ボクはね…お兄さんになら犯されたいかなァ」
横…というかこちらの体の脇にべったりと貼り付きそうな勢いで話し掛けているのは、
己の過去であり、何の因果か契約を結んでしまい、今現在マスターである少年・衛宮士郎である。
…のだが。
その…己で言うのもアレだが、清廉潔白というか、そういう色事には淡泊な印象の人物が、
聞いた事のない猫撫で声でこれまたその口から聞いた事のない卑猥な言葉で誘い、
見た事のない下卑た表情で笑うのを見ては、混乱しても無理はないと思われる。
ーこういう時、自分以上に動揺している人間でもいれば、少しは落ち着けるのだろうが。
「ちょっと、聞いてる?」
正面で若干イラついた様子の凛が、ガンドを放ちそうな勢いでこちらを睨んでいる。
…思いの外思考に埋没していたらしい。
「すまない、あまりに突拍子のない事に頭の処理が追い付かなくてね」
ふうと溜息を吐きながら眉間を揉む。…事実頭痛がしてきた。
その様子に機嫌を戻してくれたようで、凛も困ったように眉根を寄せる。
「まあ確かにそうでしょうね、インキュバスに取り憑かれたってどこのB級ライトノベルよって感じだし」
視線をこちらの少し横に向けて深い溜息を吐く凛に、返す言葉もない。
ーそうなのだ。衛宮士郎という男は、よりにもよって淫魔を拾って帰ってきてしまったのだ。
困った者を捨て置けない正義の味方とやらも、ここまでくれば馬鹿の域だともはや呆れるしかない。
「魔物だってこの世界にいてもおかしくないわよ?ないけど、
 まさか連れて帰って来ちゃうとは思わなかったわ…」
「予想の斜め上を行く、全くの想定外という事ですね」
逸話の中では時に魔物というカテゴリーに含められる事もあるライダーにも協力してもらい、
何とか排除出来ないかと頭を捻る。

『…チャー、アーチャー!た、頼むからコイツを黙らせてくれ!』
「ーむ」
急に頭に流れ込んだ声に、ああそういえばいたなと思わず呟きそうになった。
自分がこれだけ混乱しているのなら、もう一人の被害者である『本人』も同じ状況だろう。
ーしかし。
『待て、何故急にラインを通じて会話している』
ようやく冷静にー理由は先述の通りなワケだがーなった頭をフル回転させ、
当然のごとく湧いた疑問を投げ掛ける。
衛宮士郎との契約はきちんと成立し、魔力もヘボ魔術師見習いながらそれなりに流れて来てはいるが、
レイラインでの会話が出来る程の芸当は、この男のレベルでは到底出来るものではない。
それが今日になって急に繋がるなど、怪しい事この上ない。
『えっと…よくわかんないんだけど、コイツの仕業らしいぞ。俺達の間で混線?してたから、
 暇だし繋げてみたって言ってる』
『…………たわけ!他人事のように言っている場合か!自分の内部を取り憑かれた相手に
 暇に任せていじられてどうする!どこまで無防備なんだ貴様は!もっと危機感を持たんか!』
この淫魔が比較的良心的?だったから良かったが、下手をすれば魔術回路をグチャグチャに
される危険性もあるのだから、怒るのは当然だろう。
更にこの男の場合、そういう可能性があったとしても、困っているならば
平気で身を差し出すのが容易に想像できるから厄介だ。
ーああ、今この体の主導権が衛宮士郎にないのが残念だ。
「ちょ、ちょっと!何か知らないけどボクに殺気飛ばしてくるのやめてくんない?」
こちらの雰囲気が変わった事を敏感に察知したらしく、ビクリと震えて体は離れたものの、
恐怖を覚えた様子はなくケロリとした表情で困ったように言い放つ。
「言っとくけど、ボクは人間に害を与えるような事はしないから。貴重な餌は大事にしないとね♪」
「だからと言ってその気のない人間に、同性との性行為を強要するのもどうかと思いますが?」
えへん、と胸を張る淫魔にライダーの冷ややかなツッコミが入る。…確かにその通りだ。
「だってボクは変異体で男性からしか餌が取れないんだもん、それに取り憑かないと人間には触れないし。
 しょーがないじゃん」
「「「…………………」」」
逆ギレしたかのように堂々と言い放つワガママ発言に、そういう所が魔物なのだな、と一同で実感する。






To be continued...









reset

inserted by FC2 system