ケンゼンな本能 サンプル
※サンプルですので一部分を抜粋して掲載しています。
多少改行などで違う部分はありますが、内容は同じです。




我々主従の間に存在するパス、それを介しての魔力供給でも量は生活していく程度でなら
十分なのだそうだが、恋人同士という事もあり、追加分として身体を重ねての直接供給を行っている。
…アーチャー曰く、それでも全体の70%程にしかならず、要鍛錬といったところだ。
今日はその供給の日なので、いつもは遅いアーチャーも一応死活問題なので10時には帰ってくる。
更に皆気を遣ってくれたようで、家には自分以外誰もいない状況だ。
「ううっ…緊張するなぁ…」
気分を紛らわせる為、今後のプランについて改めて復習をする。
「とりあえず出迎えは普通にして、風呂から上がったときが勝負だな」
うん、と拳に力を入れて己に気合いを込めていると、ガラガラと戸が開かれる音がして
アーチャーの帰宅を知らせる。
「お帰り、お疲れさん」
靴を脱いでいる背中に声を掛けると、疲れ切った顔が振り返る。
「ああ…ただいま」
「飯の用意もあるし、風呂も沸かしてあるけど…どうする?」
脇に片膝をつきながら視線を合わせてそう尋ねると、珍しく考え込んでいる。
「アーチャー?」
「お前、という選択肢はないのか?」
「…………は?」
「いや、今日は供給日だろう?なのでそういう項目が追加されていないかと思ったのだが」
ないのか、と残念そうに呟く我が従者に、しばらくして言われた事を理解しカアッと顔が熱くなる。
「ばっ、馬鹿な事言ってないで早く居酒屋の臭い取って来い!」
誤摩化すように叫びながらグイグイと背中を押して脱衣所へと追いやる。
「一緒に、か?」
中に押し込んでもまだそんな事を言って来て、終始漂う甘い雰囲気に思わず逃げ出した。
「……ったく、何浮かれてんだか」
勢いよくドアを閉めて、ドスドスと音を立てながら廊下を進む。
「まあ…俺も浮かれてるんだろうけどさ」
恋人という関係ではあるものの、日中は人目があり、夜はアーチャーが出掛けてしまっているので
一緒にいられる時間はほとんどない。
そこに久々の二人だけの時間が舞い込んでくれば、お互い浮かれてしまうのも仕方のない話だろう。
ともかく、勝負は魔力供給の時だ。サプライズを決行させる為に誘惑をはね除けなければならない。
「…頑張れ、俺」
顔をピシャリと叩いて気を取り直す。



先程の抵抗でこちらに何か考えがあるらしいと勘付いたらしく、それ以後はいつも通りに
過ごす事が出来たのだが、夕食後に風呂へ入ろうとすると、部屋へ寝床の準備をしに行った
筈のアーチャーが近付いて来て。
「何をするつもりかは知らんが、楽しみににしている」
と、熱のこもった声で耳元に囁いて来られ、腰が砕けてしまう程にドキドキしてしまった。

勘付かれはしたものの期待されているのだから諦めるワケにはいかず。
風呂上がりに鏡に映る己と頷き合って部屋に戻る。
…アーチャーがどんな反応をするのかと考えると挫けてしまいそうだが、
何とか勇気を振り絞って歩を進める。
「ごめん、待たせた」
アーチャーの部屋へ続く襖の前で一旦深呼吸をしてから声を掛け、恐る恐る開けてアーチャーの前へ出る。
「……これはこれは」
その姿を見たアーチャーが一瞬息を呑み、若干上擦った声を出しながら
下から上へねっとりと舐め上げるように眺めて行く。
「まさか彼シャツで来るとは…どういう風の吹き回しだ?」
呆れたものではなく興奮したような声音に、内心ガッツポーズをする。
―そう、ランサーからの提案は『素肌に彼シャツ』というものだった。
「少し大きめの白いシャツから覗く健康的な足、うっすら外の光に透ける身体の輪郭、
 風呂上がりに火照った身体から立ち上る蒸気でちょっと貼り付いて肌が見えたりとか最高だろ。
 そんなん着て目の前に出てきてみろ、弓兵野郎じゃなくても落ちるっつの」 …とはランサーの言。
気持ちはわからなくもないが、それを自分がやって果たしてアーチャーが喜ぶのかは
疑問だったのだが…どうやら杞憂に終わったようだ。
「疲れてるお前を労いたくてさ…どうしたら喜んでくれるかってランサーに相談してみたんだ」
「なる程…こればかりは奴に感謝せねばな」
正面に腰を下ろすと、待ちかねたように手が伸びて来てそっと太腿を撫でられる。
「変じゃ…ない?」
不安にかられて首を傾げながらそう尋ねると、何故かグッと息を詰まらせたが、
太腿の手を頬に移動させて添えるようにそっと撫でられる。
「変なものか。むしろ欲情している。いつもの黒ではない辺りがまたそそるな」
「…バカ」
嬉しそうに言うアーチャーの言葉に、真っ赤になるこちらを眺めてクスリと笑うと、
そっと顔を寄せて唇を重ねる。
「ん…は」
「久々の逢瀬にお前が頑張ってくれたのだから、オレもそれに応えなければな」
ゆっくりと押し倒しつつ、不敵な笑みを口元に浮かべながらそんな事を口にした。





To be continued...



reset

inserted by FC2 system