Bad Romance サンプル
※サンプルですので一部分を抜粋して掲載しています。
多少改行などで違う部分はありますが、内容は同じです。




「頼むアーチャー、この薬を飲んでくれ」
来年の春に時計塔へと渡英する衛宮士郎は、現在語学を勉強すると同時に
魔術師の基礎となるものも学んでいる。
「遠坂に縁のある者として行くんだから、最低限はせめて知っておきなさい」
師匠である凛にそう言われて日夜励んでいるようだが、進捗状況について聞いた事はないので謎である。
そんな息抜きにどうかと凛が持って来たのは薬学の本と理科の実験セット一式。
設計図を思い描いて再現する魔術使いであり、料理も好きなのであれば、
特性も似ているので合うかも知れないと気分転換に与えたのだが、
予想以上にハマッてしまったらしい。その方面では凛の助手として申し分なく、
今や数々の実験に立ち会うまでになっている。
その延長…なのかどうかは定かではないが、時折その薬の効果の程を確かめデータを採取する為の実験に、
現在衛宮士郎のサーヴァントとして契約している私・アーチャーが借り出される事も珍しくない。
……要は人間より魔術抵抗が高く英霊よりも低い存在で、多少無理をしても耐えられるから、
という事のようだ。
…全くもって嬉しくはないが。
不幸中に幸いは、遠坂家が保有する『うっかりスキル』を衛宮士郎が補佐している事で
抑えられているところだろう、今のところ死ぬような目には遭っていない。

そして今日も、自らのサーヴァントを実験体にされている事をよく思わず渋い顔をした衛宮士郎が、
凛と作った薬を差し出して来た。
どういう薬かは聞かされていない。
それを知ってしまうと、正確なデータが先入観によって邪魔をされてしまうからだそうだ。
珍しく色も匂いもない液体を、若干の躊躇を覚えつつ飲み干した。
「…大丈夫か?」
心配そうに声を掛けて来る衛宮士郎に視線を向ける。
「ふむ、今のところと特に変化はないな」
効き始める時間を見ているのか、時計の方へと首を反らせた瞬間、それは起きた。
急激な眠気に襲われ、意識が奪い去られて行く。
「く……っ」
「アーチャー?」
ガクリと机に突っ伏したのを見て、慌てているらしく焦った声で呼び掛けられるが、
それに応える事も出来ない。
何とか衛宮士郎の顔を一瞬だけ見れたが、テレビの電源を消されるようにプツリと意識を失った。



気が付くと衛宮士郎の部屋の隣にある、自室に寝かされていた。
「気が付いた?」
気絶していた前と後で景色が違うものの、時間帯的な明るさが変わらなかったので、
数十分から一時間程度期を失っていたのだとばかり思っていたのだが、
衛宮士郎の言う事には、二日も眠り続けていたらしい。
「ホントにごめん……」
元々別の効果を発揮するものだったらしいが、使い魔を強制停止させるようなものになってしまったようだ。
申し訳なさそうにする衛宮士郎の頭を撫でてやりながら、
「体調はむしろスッキリして良い方だから、気にするな」
と言うと、一瞬何かを言いたそうに頭をあげたが、すぐに俯いてコクリと頷きを返すだけだった。


その後、衛宮士郎は明らかに様子がおかくなった。
まだ薬の失敗を気に病んでいるのか、微妙に距離を開けて接して来るなど、
明らかに私を避けている節がある。
決定的なのは笑顔が減った事だ。いつもはセイバーや桜に朗らかな笑みを浮かべているのに。
何故か表情が硬い。
桜達が心配して声を掛けると「勉強が大変であまり眠っていない」との事だった。
凛に尋ねてみると、実際のところは薬のデータ解析作業が大変で難航しているせいだと、
本人も若干ゲッソリした様子で答えてくれた。
「アンタの方は大丈夫なの?」
「ああ、2日間昏睡したせいでその間の記憶はまるでないが…それ以外に異常はない」
「………ならいいけど」
思わせぶりな間を開けて答える凛に何かひっかかるものを感じたが、
確証もないのに追求するのは薮蛇かと思い、深く聞かない事にした。




To be continued...



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