Lament for... サンプル
※サンプルですので一部分を抜粋して掲載しています。
多少改行などで違う部分はありますが、内容は同じです。




あの大きな手で触られると、優しい気持ちになって心がほわりと温かくなる。
一緒にいると楽しくて、何も喋らなくても苦にならないし、話をすればいつまでも話していたいと思う。
―俺は『アイルランドの光の御子』クーフーリンに…ランサーに、恋をしている。
でもランサーが好きだからといって、自分はゲイではないらしい。
セイバーや遠坂達が近くに寄って来たらドキドキするし、
そういう雑誌の際どいポーズにも健全な男子高校生らしく興奮もする。
……そしてバイでもないようだ。他の男性に…例えばアーチャーに対してドキドキしたりしないし、
そういう…肉体関係を想像してみたら吐き気を覚えた。
とりあえずランサーが特例だってわかって少しだけホッとしたのは事実だ。
歪な生き方しか出来ない自分が、性癖まで歪って終わってるな…と軽くヘコんだりもしたので。
―だからといってこの恋を成就させようとは思っていない。
ランサーは女性が好きだ。まあ神代の英雄だから男とだって可能なのかもしれないけれど、
根本的な話として自分が『そういう対象』として見られていない、というのが大きい。
ランサーにとって自分は友人…良くて年の離れた弟止まりだ。
好意を持たれているとしてもその程度だろうし、今後その関係が変化する事もない。
伝えたとして、相手にその気がないのだから気味悪がられるのは必至だ。
今の和やかな関係が壊れてしまうのは怖い。
そうなるくらいなら、このまま片想いでいる方がよっぽどイイ。

叶わぬ想いを抱えて生きていくのは辛いけれど、これから先の長い人生の中で他の誰かを好きになって、
忘れる事だって出来るだろう。
…それまでは想う事を赦して欲しい。
声に出さず、皆と楽しそうに酒を飲んでいるランサーの背中にそっと呟いた。


今日は久々に大勢が衛宮邸に集まり、ちょっとした宴会になっていた。
遠坂やセイバーや藤ねえは勿論の事、桜やライダー、ギルガメッシュなんかもいる。
一人でこれだけの人数分の食事はさすがに無理なので、
アーチャーに色々と小言を言われて喧嘩になりつつも、
手伝ってもらいながら台所と居間を忙しなく往復する。
「何をしておるか雑種、配膳などより我に酌をせよ」
そこそこに皆が出来上がって来た頃、ギルガメッシュが宝物庫から出したらしい綺麗な杯を揺らして
文句―王様発言?―を言って来た。
「アイツにばっか料理作ってもらってたら悪いだろ?」
料理を載せた盆を持っているので指の代わりにクイッと顎でキッチンの方を示す。
そこでは自分には任せられないとサッサと主導権を奪っていったアーチャーが、
酒のつまみ作りに慌ただしく動いている。
「ふむ、殊勝な心掛けに免じて許す。加えて褒美をやろう」
珍しくアッサリと引き下がってくれたなと思っていると、再びバビロンの中に手を突っ込んで
酒の瓶らしきものを一つ取り出した、更に杯も出してきて飲めと催促してきた。
……周囲にマトモな判断力を持っている人間は既にいないし―皆程良く酔っぱらっててカオス状態だ―、
どうしようかと視線を巡らせていると、偶然アーチャーがこちらに視線を向けている。
しばらく眺めて状況を理解したらしく、深い溜め息をついて呆れた表情を浮かべながら
ヒラヒラと手を振って背を向けた。
……どうやら拒否すると厄介な相手だし、仕方ないから飲んでおけという事らしい。
直前の溜息と呆れ顔にはイラつくものはあるが、厨房の許可も下りたので酒を一口飲んでみることにした。
「……美味しい」
酒というと喉を焼く感覚と辛さとか独特の匂いがある、というイメージしかなかったが、
これはそのどれも感じる事なくスンナリと飲めて、ほんのりとした甘さと花のようないい香りがする。
「ほう、料理を嗜むだけあって舌は確かなようだな。高価で良い酒の味をしかと覚えておけ」
勧めた酒が喜ばれたので機嫌を良くしたようで、そのままくれるつもりらしい。高い酒だっていうし、
こちらもそれを聞くと嬉しくなって更に一口含む。
「シロウ、私も頂いていいでしょうか?」
「わ、私も…」
美味しそうに飲んでいるこちらに興味をひかれたらしく、セイバー達が身を乗り出して来た。
自分だけで飲むつもりは当然ないので、彼女達と分け合いながら味や出された料理について語り合う。
「……女子会か」
それを眺めたアーチャーが何やらうんざりとした様子で呟いていたが、聞かない事にする。




To be continued...



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